会ったときからずっと(君は)泣いてるじゃないか。
ヒロインの心情を見抜いてるニックは女性に対する観察眼があり、しかも自身、父に家族を捨てられ癒えない傷も持っていた。そんな彼だからこそ、ヒロインの佇まいだけで、外に出さなかった彼女の真の姿は泣いていることを見破っていた。
HQの他のどんな作品とも似ておらず、ヒロインの我が道を行く姿に、清々しいまでに自分の人生を生きてるな、との羨ましさと、突っ張っても家族に受け入れられない寂しさの裏返しにも見えることのやるせなさと、両方感じた。
周囲の同調圧力が、その枠に収まりきらない者にとって、時として居たたまれない心境にさせることを、このストーリーは、極端に自分の中に引きこもっているヒロインを通して伝えてきている。
素のヒロインをそのまま気に入ってくれて愛してくれた彼。まるで鳩を慈しむように。
メイクなど、外見をいじってみればたちまち変わる他人の眼、扱い、家族のなかの自分。
ヒロインは、人々のそんな手のひらを返したようなところにひややか。
でも彼は、見た目素敵になった彼女に、ちやほや接してくれるわけではない。造り上げられた姿を好きになった訳でないから。「ゾーイ」の中身を気に入っていたから。
もともと積極的にラブモードに入りたがらないヒロインをその気にさせしっかり恋愛でコーティングするHQ土俵で、最後はヒロインが彼のことを捕まえに自分からも踏み出す。
あらゆる意味で、ストーリーにありきたりさがなく、説教臭さが無いのに人付き合いと自分を狭い社会の内の「常識」から解放させることの両立が描かれている。家族も彼女に悪意があったわけではない。扱いかねていた。彼らの思う常識の内に納めたかったのである。
遺産とか、きらびやかさとか、世俗から離れ、国立公園の公園保護官レンジャーの彼を選ぶ潔さ!
彼ほど自分をわかっている人はいないのだから、これ大正解と思える。
意外性あるストーリー展開も良かったが、ラブに限定せず、謎の被相続人と謎の相続人の姿勢絡ませながら、何が正しいかを押し付けることなく描いている。邦題は恋愛に狭めておらず内容を汲んでいる。
自分を貫く生き方も人目を気にする生き方も肯定する人生讃歌、多様な価値観の中でデリケートな優しさを持ち合わせている二人が出逢って結婚、という、実は器の大きい話だと思った。
57頁最後のコマ誤植が気になる。