優しい絵柄により落ち着いた日々が描き出される。屋敷内に使用人同士暖かい人間関係が保たれる一方、放置された屋敷の管理下の荘園と共に、静かな環境で辛く悲しい引きこもり的状況の一人の夫人。
戦争物だが、心身にダメージは負った描写のない大尉が、その心身健やかで前向きな人柄を通じて、屋敷に風を入れ換えてみんな再建してしまう、まさに浄化を地で行くストーリー。
この素晴らしい彼に愛されながら、だからこそ、自分なんかが一緒になるべきではないと考えるヒロインの考え方がまた奥ゆかしくて清らか。
けれどもその論拠は、戦争や社会情勢のもたらす歪みに基づくもの。女が一人生きて行くため、なんでもやらなければ毎日過ごすことさえままならない、その現実を犯罪によってくぐり抜けた過去を持ってしまった。娼婦か盗みか、究極の選択肢しかない時代。生きるために必死の。物乞いはきっと、与える余裕のある者が居ることが明らかでないと、出来ない事かもしれない。
ヴィヴィアン・リーとロバート・テイラーの映画「哀愁」はもう片方の選択をして一緒になれなかった話だが、こちらはHQ。
彼の凄さは彼を育てた御両親からのものだった。
悲しみに閉ざされていた心や、前科者であるとの負い目で頑なに受け入れようとしない心を、この話は完全武装解除して、全員を幸せにする清々しいクリスマスシーズンのストーリー。
出来すぎ展開構わない。皆が一つの祝い事に全てのわだかまりなく楽しむ様子が綺麗なのだ。そうなるまでの心の外堀を、ラムパンチや軟膏が、温めて、癒して、埋めていき、遂には最大にしてメインの難所、プロポーズに承諾が出来ない、ヒロインの彼への愛ゆえの躊躇を、彼の豊かな愛の源泉となった人達により降参させられるのだ。
ハートに穏やかにクリスマスの良さが入ってきた。
プディングのかき混ぜ習慣の実態(!?)というか、そういう習俗の意義をこの作品で知ることができ、目から鱗だった。イルミネーションと商戦にまみれた、自分の知る現代の風景とは似ても似つかぬ、平和の光景に、終わった戦争を思い比べた。
素敵なひとときを楽しめる作品と思う。
これを波乱がなくて退屈な話と感じる人がいるとしたら、既に幸福を享受しているのかもしれない。
この作品の登場人物達は全員、過ぎたことを乗り越えて訪れた今を楽しむ喜びを噛み締めている。その空気が疲れた自分を癒してくれた。