ヒロインニコールとヒーロードミニクの出会いは万事良好だった。彼女の笑顔に惹かれ 虜になったドミニクは、新しい住まいの大家が彼女であると知った時、まるで運命の導きとさえ感じただろうが、悲劇は彼らを襲った。それまでニコールの光の中で輝いた笑顔は鳴りを潜め どうにもならない全てを嫌悪し、取り留めたことさえ憎み始めていた。この先に待ち受けるリハビリと共にある人生に、愛するドミニクを置くことを、一筋の光を持てたらという希望と同時に、湧き上がる罪悪感と彼を失う恐怖に 自らを説得するという相反行動が彼女を追い詰めているのが伝わってくる。なまじ、物語の冒頭が 晴れ晴れとしたまばゆい光の中の場面だったから 事件後の鬱々とした情景の影を色濃くして 読み手を闇の中へ誘い込むことに成功している。そこからの脱却はハリウッドスターの娘誘拐事件によって、昔とは違う自分を伴って前へと進むのには、珍しい事象であるのだが、新しい自分にも何かしらの価値があるのかもしれないという 希望 を作り上げていて見事と思う。ただ元の自分の生活に戻るという未来だけではなく、付加価値を足すことで その価値は 負 なのか 正 なのか 見極めるのは難しいが、そこにはドミニクという支えを配置することで 忍耐の試練さえも用意されていた。人体の不思議はまだまだ未知数であることを利用しての物語は その不思議さをも追い風にして支え合う者と共に進む幸福のステップとして理解でき、私も胸をなでおろした。