セットで読んでいるのだが。三浦先生の別のHQ作品でも殺人事件が出てくるものを読んだので、思い出し、こちらの個別レビューも載せたくなった。
この話はヒロインが殺人犯であることを示す状況証拠から、捕まったら犯人扱いを免れない、絶体絶命を何とかしようともがく二人の愛の逃避行ストーリーである。
かつて好きだった人に、そこまで守ってもらえて、一緒に逃げてもらえて、もう生きてて良かった、の世界かと思う。勿論、真犯人が出てくれば良いのだが、回りが皆ヒロインが犯人と思ってしまう中では、為す術が見当たらない。
そこに、なにがなんでも味方となってくれる侯爵が居てくれるのだ。何と有り難く嬉しく、幸せなことか。彼自身も危なくなるのに!
もう、世界中が敵でも、彼だけは見捨てない、という、シンプルにはその大命題が描写されるのだ。
もうそれだけで胸一杯の世界。
二人の気の休まることのない逃避行がストーリーの緊張感を持続させる。
二人の愛情は当初から夫婦関係にも似た信頼関係であり、人間の純粋な感覚による根元的な信用。なにかで試した訳でもなんでもない。それは巻き添えにしたくないわ、と共感。でも、一人じゃ何が出来たというのか。
なんの心情の吐露もなく、ましてや約束などない、身内でもないし以前からの友人知人ですらないのに、危険を冒して続ける逃避行。ロードムービー型展開で、相当の期間を経て一線を越える慎ましさ。
当人たちは必死、ストーリーは穏やかなものでない。
彼は物凄く頼りになるし、ヒロインを信じるところが半端ない。一切自分可愛さ的行動に走ることのない彼のヒューマニズム!
見た目は、華麗なHQワールドではない。貴族の世界を描いているといったって、これは人間の素質の問題、悪意ある人間が居て、潔白を証明することも難しい、という八方塞がり状況。海外ドラマ「逃亡者」を思わせる設定。
こんな男性いたら絶対好きになるわ、という感じ。しかも他でもない、かつて憧れてた人その人による、博愛にも似たかくまってくれる、庇ってくれる、救済の手なのだから。
冤罪なんて一度捕まったら無理そうな時代、彼はとことん尽くしてくれてしまって、涙の行動なのだ。
この話は、ため息の出るようなきらびやかさはなく、行き詰まる逃亡と、二人の徐々に熟す愛情の束の間の甘美なひとときとのサスペンス劇場。
ただただ、侯爵に頭が下がるストーリー。