相手が何者であっても恋に落ちる話が私の好きなパターンの一つ。
このストーリーは、それに輪を掛けて両人には、どちらにも、相手を憎んで当然だと理解できる事情。恋愛感情を自覚した後にわかることがある。憎しみに先行して育まれてしまった愛。
戦争、人の生死の関わること。勝つために敵も味方もどちらも必死だし、食うか食われるかの極限で繰り広げられる綺麗事の通用しない地獄。その描写が生々しく描かれることはないが、それでも、人間関係の構図それ自体が、残酷に二人を配置させる。
この話には、愛が勝つという、ラブストーリーならば直截的な必須要素に辿り着くのに、二人が乗り越えるべき困難が本当に厳しい。
けれども、それを実現してくれる話。やはり、愛が憎しみに勝っているのだ。
出会ったときは互いに相手が誰であるかを考えていない。すべては其処から始まっている。相手を愛し始めてから、あとで知ることが苦しみをもたらす。
かつて血みどろに敵対しあった国ということが、どういう残酷さを浮かび上がらせてくるかを突きつけてくる話。そんな戦いに、決して無傷でいられず、自分が戦場に出ていかなかったとしても無縁では生きていられない、むしろ、遠からず因縁の絡み合う、或る意味狭い世界。国家間の戦争の持つ側面は、戦争が終息しても、人々の間に残るわだかまりからひとが解放されないという現実。
敵を愛せるか、究極はそこなのだろうが、このストーリーは、間接的な敵味方でも、読み手に愛の存在を信じさせてくれようと、話の骨組みが通うところが一段高い。
絵も丁寧で、身なりの描写や、暮らしぶりやサスペンス場面の描写に、雰囲気などがよく伝わってきて視覚的説得力が強い。登場人物の描き分けも素晴らしい。
星は5.2か5.3という感じ。