ひどい人間だったと言われ、冷たくされるが、それも身から出た錆らしい。初めて出会ってときめいたが、もう二人は終わっていたらしい。
病院で目覚めたらこんな展開になった。
どうせそんな人間と思われてるなら、じたばたしても同じと居直って、元の自分像に振り回されずに生きようと。
そんな暮らしは素晴らしかった。
92頁のヒロインの嘆きが胸に突き刺さった。そして、読み直してみたら、味わう角度が変わり、更にいわれのない仕打ちを受けたようにも感じとれ、どうしてそんな目に遭わなきゃならないのか、とさえ思った。
最後まで謎に包まれている部分があり、それ故にヒロインの記憶にかかる靄がなかなかスッキリしないで、二人の関係も未決着のまま引きずられる。ストーリーは極悪人による巻き込まれ事件なので、全面解決をもってやっと安心できるのだが、ヒロインはまごう事なき被害者。なのに、冒頭はみんなに冷たくされる。仕方なかったとはいえそこが読み終えてもなお、ヒロイン可哀想だったとの思いをぬぐい去ることができない。終わりよければすべてよし、とは言い切れない。これからも、ヒロインは同じ理由で被害者になる可能性が、住まいなどの周辺で続くわけだ。
ヒロインはほとんどの記憶が欠落した状態でさえ、事故前どんなことをしていたか、朧気ながら脳裏にあった。この不整合について探偵登場まで解明に前進がなかったが、女子校とかフランス語とか複数の鍵はかなり利用価値があったのに。
幸せは危険と隣り合わせにやって来た。二人の関係は彼にとって本当に不幸な結婚についての心の整理が済ませられたものであったならいいのだが、物語はそこに踏み込むほどの紙幅がない。
ただ、間違いなく、家族にとってこんな好都合な事件はなかった、ということだ。
事件で、最も得をしたのは誰なのか、というサスペンスの原則を見つめ返すとき、このストーリー、悪人たちは決して利益の出る行動をはじめからしていない、ということになる。
派手な線もキラキラした絵もなく、ただ、シンプルに、語りとコマが、有効なカードを切っていくようにストーリーを展開させる。
HQのお約束のように彼にプロポーズさせるシーンは、もうひとつのHQのお約束のようによく使われる筋運びであるヒロインに会いに行く場面とセットにしない。そこはわかるものの、ヒロインの躊躇いをもう少し共感しやすく見せてほしかった。