違うと思っていたい、知りたくもなかった事実が明るみになってしまう。彼の前に憎むべき対象が形となって、関与の程は不明でも事件はそこにある。
これ迄も数々の忌まわしい因縁が彼の憎悪と不信を募らせてきた。
しかし、生身の目の前の相手の存在は次第に、互いの感情を確執とは別のところに連れ出していく。
ヒロインは記憶を取り戻しても言えなかった。元の場所に帰りたくなかった。
敵味方別れる構図で絶え間なく襲撃や攻撃を受けて気の休まらない中で、信頼を築くのは大変なこと、国の対立が武力行使に頼る時代ゆえ、まして相手の素性に対する疑心暗鬼も身内に起きたことを思えば致し方ない、それだけ二人が乗り越える壁は大きかったが、ヒロインの行動は彼の壁を崩していった。壁を崩す、というのを、打ち寄せる波と見立ててタイトルがある。
結局彼はヒロインを手離せない、ヒロインは彼から離れたくない、この感情をもっとドラマチックに描いて、愛の深まる過程を味わいたかった、というのはある。
しかし、これだけいろいろ詰めてストーリーに無理が無いのは流石だ。
一方、衣装や城描写にエネルギーが割かれたか、メイン二人のシーンにうっとり出来なかったのが少し残念。
ロマンスコミックは頁をめくる手がゆっくりになったり、止まったり、またはもとの頁に戻ったりしたくなる、そんなところが欲しいものだ。