子供の頃、鉤手の傷痍軍人が日本の街角にも居ました。物乞いをしていて、辛そうで、やっと座れる状態で、彼らは幸せに見えなかった。正視出来ませんでした。
このストーリーには、戦後の暮らしや、戦争中の物資の供給のプロセスに起こること、戦争孤児や寡婦が生きていくことの厳しさ、ユダヤ人のこと、身内に戦死者の出た家庭のことなどなど、実に多くの問題が、極端には深刻な顔をせずに顔を出し、そして、ヒロインと提督の二人の出会いがそれらを薔薇色の明日に変えていきます。橋本先生は、もしかしたらあったことかもしれないと思わせるハイレベルのコミックで、絵空事から、人の結び付きの妙を巧みに魅せてくれました。
二人が出会ったことが奇跡なら、その二人の化学反応がもたらしたこともまた奇跡とでもいうように、暗くなっていた周囲を薔薇色に変えていきます。なので、ストーリーは明るくて素敵な人間関係の構築があります。
ヒロインは本当は辛い経験をしてきて、涙にくれても仕方のない日々を送っていて、この出会いは神様が見捨ててなかったとしか言い様のないもの。
それにも拘らず安っぽいお涙頂戴に陥らせず、22頁辺りの場面の良さが作品の魅力を特に高めています。
ヒロインは毅然と前を向いていて、読んでいて私も背筋が伸びるよう。
一方彼は大勢の兵士の長として、沢山の死と地獄を見ました。無念な死とも数えられないほど向き合わざるを得ませんでした。その後悔が、今の彼を形成しています。
この出逢いの偶然が、ヒロインの亡夫の無念の死をも晴らしてくれます。
時代背景の暗さを、コメディの調子に綺麗にくるんで、幸せが広がる様子を気持ちよく楽しめました。
自然と助け合っていく姿が良いです。
もちろん、悪役有ってのストーリー、それが逆に展開に人の世の情け深さみたいなものも現れることとなって、ホッとさせられます。(ま、それでもスターキー、いくら提督(チャールズ)が好きだからといって、その行為は激しくやり過ぎでしたね。災い転じて福となったから良かったようなものの!)
多くのストーリーは終盤にやっと幸せが訪れる構造ですが、これは幸せが沢山あり、途中黒雲があってもそのあとのほうがもっと幸せになるストーリーです。
ただ、亡くなったアンドリューと息子ピーターがあんまりだったとは思うのですがーー。