饐えた臭いがする。金に物を言わせて好き放題のレンツォ。プライドだけを礎に愛情を溝に捨てているダーシー。それぞれの問題ある生い立ちを書き連ねてあっても1ミリも同情できないほどの展開に、購入して以来2度目に読むことを敬遠していた。双方が不器用すぎるが故の展開ではあるのだけれどあんまりな物語にロマンスよりも吐き気を催す。しかし、これは物凄く奥深い。人の中にある階級意識。これを覆すのは最も困難で理屈ではない、好きは免罪符にはならないのだ。似たような題材のHQはあるが、そんな簡単でいいのかシンデレラストーリーよという物とは違い、「イヤなのだけれど気持ちが無くならない」「否定しながらも一緒にいたい」が下司なほどに表に出ていて嗚咽を伴う作りだ。右往左往する2人の中にある頑ななもの、それを粉砕する「何か」を探し求めて尚、困窮する。そしてネックレス事件を通じてお互いの中にある「違い」を見出し、克服するのだ。全体にわたってレンツォの目が非常に冷たく見える書き方でなかなかロマンスに結びつかず心が折れた。また、P26の幼少期のダーシーが母と手をつないでいる「古い歌」の場面は、ラジオからシャンソンが鳴り、セピア色にさえ見える。何とも暗く生々しく記憶されてしまった。好みのHQではないので3度目に読むのはまたしばらくかかるだろう。