芸術家。彼は自らも美しい肉体を持った才能ある彫刻家。盲目。同居の男性が甲斐甲斐しい。そういう二人なのだと、ヒロインが思う要素は幾つかあった。
感傷混ざる海辺でのヒロインのバケイション。好きだった相手が自分とは遊ぶ気なだけだったと知って。その辛さを思い出させる別荘とは隣同士。
その記憶生々しい場所で、ゆっくりできるものなのかな、と思う。しかも、何事かあったその人に近い人物なのだから、もっと頭に警戒信号灯るものだろうが。しかも、浜で変態かもと警戒した人とその怪しげな連れを見かけた翌日、隣の人物情報をうっすら仕入れたところで、話しかけに行くのも、余りに急な転換に感じる。
モダンアートに対するヒロインの感想は、全くその通りで、読み手のこちらの日頃の感じ方を代弁してくれている。ただ、その直前の19頁、彼の顔の右近くに入っている右手が変に見える。
作品を作れなくなっている芸術家。題材は割とありふれているが、僕は君だけを知らない、という言葉に深さがある。この作品で、ヒロインの叔父も、痛い恋の対象だった人も、彼は知っている。同居人が失明前からの付き合いと彼女はこれで分かる。
砂浜に戯れで制作した「作品」のシーンはとても良い。
「気持ちを言葉にするのは難しいね」「僕はできないから形にしてきた」「彫刻でー」これらの言葉は多くのアーティストが口にするが、形にするという行為についてを漫画で表現しようというのは、読んでいて伝わる。
そして「幸せ」を表現する、ということ。これは、原作者の腕による幸せの文章表現とわかっていながら、コミカライズで頑張る所がよい。
しかしヒロインが彼への思いを自覚する中での悶々は、少女漫画のそれである。私は嫌いではないが、子どもっぽいと見る人はいるかもしれない。ヒロインは女子大生設定だから、普通と思うが、こんなとき、HQの読者とはどの層を想定してるのか、わからなくなってくる。
キスで酸欠とも言っているし。
もっとも、「なんでこんな人に憧れてたんだろう」、これで大人になるのだから少女臭さは弱まる。
事故で彼はやはり責めない。取り返しのつかない芸術家生命の致命傷だったら、ヒロインはどうするつもりだったんだ、とは思うがお話だからそこはー。
花束のところも素敵な細工で話が美しくなっている。
扉絵に繋がってうまい。ヒロイン目が大きいと思ったが仕方ない。
4.5。