話はすごく好みで、絵が津谷先生の洒落た雰囲気。
舞台が日本ではないとはっきり感じる絵がいい。
ヒロインの気持ちがよく伝わり、失恋の苦しみがなかなか過去とならず、彼がどんな存在であったかよく分かる。また、本気になった男性の意思を見せつけられて、アッサリのようで実はねっとり感もある様子が、男性の心情を拾っている様で、少し新鮮展開に思えた。既に成功した男性を射止めるHQが多すぎ、お金目当てではない云々のヒロイン設定が、お話の成り立ち自体を否定しているようでわざとらしく感じ、素直に受け止められないことがある。
しかし、このストーリーは、成功前の頃の彼に、ただ若かったヒロインが、素直に想いを一途に募らせていった純粋な恋愛。私が一番好きなタイプの話。何者であるとか関係なく、自然な感情のみで相手を好きになる話。本質的で本能的で、真っ直ぐ。だからとことん失恋をひきずる。一度好きになったら、簡単には立ち直るなんてない。すぐ次、なんて、なかなか行けるものではない。こじれた男女がたぐり寄せられていくのは、偶然任せだけでもなく、という、そこがいい。
これ、人によっては怖いというかもしれない。でも私は、この恋愛スイッチが本気モードに入っている人間の行動は、他人からは一種の狂気と受け取られかねない粘りが付き物なのだと思っている。だから、証拠などなくても相手を信じられるのだろう。
それだけ相手の事を見続けてきた人だった、ということなのだろう。
素敵な筆捌きでHQ世界を描き切って堪能できるが、少し人物絵に省きを感じ、線などがときに吟味不十分の印象。
ロッドが、もう少しビジュアル強く押し出して良かったような気も。かわいらしい男性だった。
一世を風靡した歌手の寿引退の時、相手の俳優が彼女を意識し始めたある日に高校の制服姿を見て罪悪感、という当時の心境を語る言葉を読んだことがある。二十代男性から見たら、健全ならそういう気持ちになるのは不思議ではない。惹かれる気持ちと、セーブをかける気持ちと。そういう年齢なのだと思う。ぞんざいにしない、男性の責任感なのだろう。その対応には少女時代に胸に覚えがある。
苦い別離も巡り合わせのドラマを産むルート上の置き石となり、物語の妙を、感じることが出来る。
小憎らしいシンシアが仕事してる。
「序曲」は画廊との時間が変かと思ったら、リトだった。序盤見落としてた。納得。