ガサツで下品で女に弱い、バツイチ独身、仕事人間、しかもマドキワ、定年も近い。こんなのが主人公なのに、どうにも憎めない、魅力のあるキャラクターとなっていて巧妙なバランスだと思う。いっそのこと不気味なまでに主人公に感情移入できるという面白さがまずある。その人物が、不純な動機ながらも俳句を趣味に、と、物語が動きだし、読者も一緒になって俳句を学んでいく、その学びそのものの面白さもある。さらに、登場人物を通して、表現をするということの愉しさ、苦しさ、葛藤などの感情を読むことで体験させられ、その上でその表現が一定まで完成されたときの面白さ。ああ、できあがってる……、と思う瞬間には、自分が作った俳句でもないのに嬉しく、また俳句そのものもじんわりと染み込むように観賞できて、なぜか涙が出る。絵柄の好き好きは論じようもないが、俳句やセリフではなく、絵そのものも読者にきちんと語りかけてくれていて、この風景なら確かにこの俳句がでておかしくない、という納得の構図をしている。読者層の世代から鑑みたら、もっと下世話でただれるような恋愛模様やら、お色気とエロの境界線の崩壊しきった絵柄やらを持ってきそうなものだが、そこらへんの悪臭ノイズが排除されており、なかなかに清々しい。いや、恋愛?的な感情は多少なり話の展開の軸ではあろうけれども、ケバケバしくない、あくどくない、エグみがない。そういえば、昨今「毒舌先生」と呼ばれるいつき先生の句もチラっとお見かけできる。俳句に興味をもったら読んでみることを強くお勧めできる作品。ただし、これで完結なのはあまりに情けないので星ひとつぶん減点。