いい人なのか悪者なのか一部の登場人物が最後までわからない仕立てで、物騒な話がたくさん。
信じなければ、信じようとしなければ、誰のことも疑える。その中で、負傷の手当もされたりしたり。
そんな不穏な緊迫の状況に身を置くとたくましくもなるし、元々そんな素質もまたあった。そういうお互いが引かれあうところが巡り合わせというものなのだと思う。
男が正体不明であってもヒロインが彼に惹かれていくのは、彼の本質を見てるからなのだろう。そして、読者もまた、物語の初めに不名誉な罪を問われる場面が提示されているため、疑惑から逃れられない彼の立場を知って読んできている。彼が自暴自棄にヒロインに接したとしても展開としては不思議ではなかっただろう。
だが、彼は紳士だった。
黒雲に覆われたような恐ろしげな物語の始まりは、全ての悪を退けて、平和の日々の回復に終わる。暗闇から陽射しへ変わり、安心してこの1冊を閉じる。読みごたえ充分です。