愛の強さがヒロインを地獄から救い出した。悪意と嫉妬の底知れぬ恐ろしさ。悪魔のような企みは殆ど成功したも同然だったが、愛しているコーラ、ヒロインのことを片時も忘れることはなかったクリストファーは、何処にどんな姿で何をしていようと、彼女を見間違えなかった。
私は基本、相手が好きになったら何者であろうと感情に素直なストーリーが大好き。しかも、ずっと好き、というのがこの上なく好き。6、7年間では、断ち切れるほど長いといいきれない。
このクリストファーは、まさしく私の理想の愛の権化のような役どころで、この設定だけで彼に幸せを、と祈らずにはおれなかった。
ヒロインが誰であろうと、その感情に従い、ヒロインに幾度目かの苛酷な悪意の行為が襲いかかったとき、今度は間一髪で救出に成功した。かつて結婚を誓い合った生死も定かでない相手であることを、ヒロイン当人が違うと言っても、何度言っても、自分の愛してる人なのではないのかと、心のどこかに自分の勘に間違いはないと信じ続けた愛の人。
もう、もう、それだけでどれだけ好きか十二分に素敵なのだが、話は悪人の罪が、重く問われることが無く終わる。ピュアな彼らの前に戦慄の犯罪者は静かな退場だけ。確かに世の中実際邪魔者を不当に叩きのめして自ら接近するなんて悪人いるけれど。
兎に角やっと訪れた平穏。憎悪を長年見抜けなかったという善男善女(!)、なんだか、人ってどうもこうして見抜けないものかなぁと、現実社会を見た気がして寒気がした。
悪夢のような7年。7年もの間をコーラという暗闇の中で怯えて暮らしたヒロイン。その修羅場を潜り抜けたればこそ、犯人との対峙にもう怯まない。
弱かった少女は自分の足で立ち、失われた七年を返せと、奪ったものを返して、と言い返す。
HQには、幼かった頃はダメだったけれど、大人になった今なら出来る、というストーリーも結構あって、失敗のリベンジで自力で光を掴む話には女性の成長がよく題材にされるが、この場合は悪質な犯罪に対して、最終的に、敵と戦える女に成長したヒロインの幸せ奪回ドラマなのだ。異色だが、彼の褪めない愛、あせない愛、消えない愛、恋人から婚約時代を経て空白の七年間愛し続けたストーリー自体に私は感動した。
高らかな愛の勝利が結末に感じ取れてよい。
「売り渡された淑女」を先に読んでおり、その順番は楽しめた。でも、逆でも問題ないとは思うが。