かつて九州大学医学部で行われた、アメリカ人捕虜の生体解剖事件を題材にした作品。軍部の思惑や医学部内の権力争い、そして「自分を押し流す運命のようなもの」に流されるまま、生体解剖に関わった人々。そしてその「取り返しのつかなさ」に気づいた時にはもう遅いのだ…。この作品の存在を初めて知った10代の頃から、このタイトルの意味を折に触れては考えている。海に垂らした毒が、どんなに薄まってもその存在を無いものにはできないように、どんなに長い時が経過しても過去の罪は(風化はしても)消えないということだろうか。「海と毒薬」とは、「時の経過と、過去に犯した罪」と同じ意味なのかもしれない。この事件のその後を描いた続編「悲しみの歌」を読んでから、特にそう思えてならない。