米兵捕虜の生体解剖事件に関わった勝呂医師のその後を、新宿を行き交うさまざまな人々の姿も交えながら描いた作品。事件後30年を経ても決して消えることのない、過去の罪を背負って生きる勝呂。そして勝呂を追う新聞記者・折尾。「人間の悲しみが分からず、人間の悲しみを知らず」、そして「人生のすべてを正しいことと悪いことに割り切る」折尾だけでなく、それぞれが己の信じる正義の名の下に勝呂を追い詰めていく人々。その「正義」がどんな結果をもたらすのか、考えもせずに。確かに勝呂の過去の罪は許し難いが、彼のその後を「自業自得」と簡単に切って捨てられるほど、この世に生きることは単純ではない。そこに「生きる悲しみ」が生まれるのではないだろうか。この作品はそんな「悲しみ」に満ちている。