ドイツにおけるユダヤ人虐殺がテーマとなっていて、内容は重いです。 かつての同級生が修道士とナチスの党員という正反対の立場に身を置き、2人の主人公の人物描写がしっかりとされています。それぞれが己の信念に従って行動するさまが静かに、力強い筆で書かれていて物語の中にぐいぐいと引き込まれていきます。
大勢を守ろうとしたマティアス。
自分のものだけを守ろうとしたアルベルト。
2人の願いは似ているようで、違う。それゆえ残酷なほどに行動は対立する。修道士として奔走するマティアスに比べてアルベルトの気持ちは分かりづらいですが、終盤に彼の真意が明らかになります。かなり研究されたのでしょうが、カトリックの慣習や当時の内情が詳しく書かれています。過酷な状況に抵抗しようとする信徒達の行動には何度も胸を衝かれました。究極状況下における神の権力と人の権力の対立を描いている、とも言えるかもしれません。一方で吐き気がしそうなほど残酷な戦場の様子も生々しく描写されています。戦慄するとともに、実際あった過去なのだと思うと戦争の恐ろしさ、醜さ、残酷さを目の前に突きつけられた思いがします。
めちゃくちゃ書いていますが、それだけ読み応えのある作品です。最後は泣けます。残酷だけど、美しい。ぜひ沢山の人に読んでほしいです。
因みにこの作家さん、「また、桜の国で」の中でポーランドを舞台にして同じテーマを扱っています。興味のある方はぜひ手に取っていただきたいです。