著者・氏家幹人氏の最初の本だそうな。曰く、その後の自分の興味がほとんど入っている、とのことだが、確かにそう見える。「江戸藩邸」なんて堅苦しくて面白くなさそう、と早合点してはいけない。江戸藩邸は各藩の大使館のような存在で、軍事要塞的性格も持っている。秘密の江戸のディープスポットだ。その内側で繰り広げられる人間臭い有象無象が、氏家流に語られる。各章のテーマはバラバラのように見えるのだが、全体を通して、江戸藩邸が江戸時代260年の間にどう変化し、どのような役割を演じたかが緩やかに見えてくる。各藩の藩主たちが江戸に住み、交流し、なにがしか「江戸」を(勤番藩士たちも)領国に持ち帰る。参勤交代なんて壮大な無駄にも思えるけど、この積み重ねが案外、時代を日本という国を、熟成させていったのではないか、などとも思える。