こんなに口と性格の悪い主人公を魅力的に書けるってすごいなあ。筆力のある人にしか許されないタイプの主人公でしたね。口が悪いだけでなく性格も悪くて、それがだんだん素直になったり、逆に素直になれなくて余計に意地を張って事態を悪化させたり、もう目が離せない。中馬がベッドにいる久我山を見て、男も好きになれるか考えるシーンが好きです。ホモフォビアのくせに身体は興奮する久我山に対して、中馬は興奮の兆しもなく、恥ずかしくて久我山が逃げ出すのがさー、もう完全に久我山サイドに立つ転機となりました。あんなにホモを罵倒していたのに、恥ずかしすぎるぞ、久我山!そして恥ずかしいとはかわいいに転じやすく、気づけば久我山に夢中です。子どもみたいに思ったことをベラベラ口にするところと、大人としての仕事のプライドをもつところのアンバランスさもよい。穏やかで感情を波立たせない中馬が、完全に振り回されていますね。読み終わった後は、久我山にあんなにディスられていた鹿児島に旅行に行きたくなります。