読んだ感想を一言で表すと、佐伯沙弥香という人間の奥行きに心を掴まれてしまったということ。
やがて君になるを見た人なら知っているけど、アニメでも漫画でも、主役は侑と燈子。沙弥香は、燈子を密かに想うおしとやかな親友で目立ちはするけどあくまで二人に準ずるキャラクター。女の子を好きになった経緯である過去の描写こそあれど、家庭環境や彼女自身の普段の物の見方はほとんど出てこない。
私がこの物語を読もうと思ったのは、そんな靄のような謎のベールに包まれた彼女をもっと知りたくなったからだ。
少しの登場で、確かなインパクトを残す沙弥香。影のある役どころが、切なく儚いやがて君になるの物語とただただマッチしている。
そういうわけで、早速購入して読んでいるわけだが、この物語は終始、沙弥香の視点で書かれている。
小学校から中学校、高校入学直後と読み手に季節を感じさせながら進んでいく。
個人的な見どころは、大人びた沙弥香の思考がそのまま文字に書き起こされている点だ。
どういうことか。何気ない家族との会話、先輩とのやり取り、人生観が彼女の中できちんと言語化されており読み手が手に取るように分かりやすく伝えてくれている。
見どころな理由は、一つ。思考はその人そのものを嘘偽りなく表現しているものだと思うから。沙弥香の、はっきり曖昧な心の内を覗き込んでいると、こんなに完璧な見える人にも葛藤と我を忘れそうになる瞬間があるのか。けど決して、それだけで終わらない彼女の芯のようなものが確かに見えるのだ。そして、自分と向き合うことを意識せずとも瞬間瞬間している沙弥香だからこそ、もっともっとと覗いてみたくてしょうがなくなるほどの奥行きが生まれるのだ。
強くて繊細な一人の女の子、佐伯沙弥香について覗いてみたくなったらダウンロードしてみてください!