冒頭のシーンとR-18文学賞受賞という点から、官能小説寄りのストーリーを想像していたのですが、そんな括りでは収まらないほどの奥深い話でした。「こんな人が身近にいるかもしれない」と感じるくらい人物造形に奥行きがあり、単純に「良い人」「悪い人」と言える人は、この小説にはいません。良い人だけど闇を抱えていたり、良くない人だけど、そうなってしまった理由には納得できるものがあったりします。すべての人々の間で起こったことがスッキリ解決して「めでたしめでたし!」とはならず、過去に起きたことはこれからも影響していくし、ずっと抱えて生きていくだろうと感じさせられるところにリアリティがあると思いました。恋愛・結婚にしても性行為にしても出産にしても、人の行いは「単純に割り切れないもの」だということを痛感させられるお話でした。