このレビューはネタバレを含みます▼
一言で言えば不倫の恋のものがたり。
それがフィクションでも無理な方は回れ右。
主人公の栞は春一郎に恋愛感情だけでなく、父性の様なものも同時に重ねているように思った。
時々の逢瀬を愉しみに待つ裏側の世界には、春一郎の妻と子供(小春)が確かに存在しており。
二人の恋がどれだけ慎ましく美しくても、誰かの不幸の上に立っているという事実が、ふとした瞬間、読み手にも主人公の中にも陰をさす。そうした主人公の切なさや、それでいて心待ちにしてしまう描写を、いつの間にか読み手側も共有してしまう。
後ろ暗さの合間に入る美味しそうな料理や景色の描写が緩和剤になっている気がする。おでんとか鰻とか、此処に出てくる食べ物はとても魅力的だ。谷中という舞台も味わいを深くしていると思う。
先に出会っていたら…と願う二人だけれど、個人的本音を書いてしまえば、男の気持ちに確約などは無いのでは、とも思う。栞を愛していて、だけどすぐに家族を捨て切れない。それが男の本当の優しさなのか。養育という子供への責任心なのか。家庭に心此処に在らずという状態って、妻なら薄々何かは思う筈だから。小春ちゃんの立場と同じだった友人の子供を知っているので、ついそれがよぎってしまった。
この小説の中の料理や景色、二人での甘い逢瀬の様子は、綺麗な上澄みだけを掬い取って書き連ねた栞の願望の部分に過ぎないんだろうなぁ、というイケズな心が出てしまう。
とまあ、ツラツラ書いて…昔から文学の題材に出てくるだけあって、人の間での秘めた恋は人間のサガ(性)というか…切り離せないものなんだろう。
小説なのでこの世界を純粋に楽しみながら読みました。
着物もいいな、なんて思いながら。