このレビューはネタバレを含みます▼
山本周五郎の傑作短編の一つ。大工の若統領・茂次の不器用さ(大工としてではなく人間として)と口下手がもどかしくもいじらしく、胸を打たれる。その不器用さと口下手故に、彼の言動は時に不義理や親不孝、不人情に見えるが、その言動の裏には相手への思いやりや両親への思慕の情など、あたたかな心が隠れている。そして、彼を支えつつ孤児たちの面倒を見るおりつの存在。おゆうに嫉妬や羨望を感じても、それを極力態度に出さないようにして、子供たちと一緒に読み書きを教わる健気さ。互いに支え合い、補い合いながら、温かい夫婦に、そして家族になることだろう。読み終えた後、心が温かくなる作品である。