このレビューはネタバレを含みます▼
世間の流行りに迎合できない火鉢職人の重吉。そんな不器用な生き方しかできない重吉を理解し、支える妻のお直と子どもたち。懸命に生きる江戸の下町の人々の暮らしぶりを、丁寧に、時にはユーモアも交えて描き出した短編です。おのれの不甲斐なさに「押し込みでも泥棒でもやってやる」と自棄になった矢先に、酒の勢いでたまたま知り合った男を自宅に連れ帰ったら、その男がまさかの泥棒だし(笑)。手拭いでほっかむりをして泥棒しに行こうとする重吉。全てお見通しでそれを止めるお直。「ちゃんが出て行くなら一緒に行く」と声を揃える子どもたち。夫婦の、そして親子の、互いを思いやる温かさが、じんわりとこちらの心まで温かくしてくれます。山本周五郎の作品は、どうしてこんなにも胸を打つのだろう…これだから読むのをやめられない。