このレビューはネタバレを含みます▼
確か中学三年生の国語の教科書に載っていたと思う。私が初めて読んだ山本周五郎の作品であり、また自分の人生で初めて「芸術とは何か、どうあるべきか」を真っ向から問われた作品。ぴーんと張り詰めたような冬の空気の中、迫るお城での鼓くらべに備えるお留伊と、その鼓を聴きに来る謎の老人。その老人の正体と言葉の意味に気づいた瞬間、音楽とは、芸術とは何なのかという問いの答えにも気づいたお留伊。芸術において優劣を競うことの無意味さに気づいたお留伊と、「あなたは打ち間違いなどしなかった」と必死になる師匠との対比は、真の芸術に目覚めた者とそうでない者との差を、残酷なまでにはっきり読者に見せつけている。こんなに短い作品なのに、なんという深い味わい。さすがは山本周五郎。