このレビューはネタバレを含みます▼
「御定法では罰することのできない罪」を犯し、父を苦しめた者たちに自ら裁きを下していく主人公・おしの。主軸は彼女の復讐劇であり、一人ずつ狙いを定めて仕留めていくところはサスペンス小説でもあるが、同時にいかにも山本周五郎らしい人情物でもある。「千両貯めたらお前を連れて出ていくつもりだった」と語る父・喜兵衛の言葉。召使いの少女おまさが罪に問われぬよう、あえて遠ざけようとするおしのと、女主人を慕いつつ案じるおまさとのやり取り。おしのの死に顔を見つめながら「父親の側でゆっくり休むがいい」と呟き、手拭いをかけてやる同心・青木の優しさ。そして喜兵衛とおしのの、互いを思いやる愛情のなんという深さ。罪を罪とも思わない者たちの死に爽快感を感じる部分もあるが、最後まで読んで振り返ってみれば、なんとも哀しく切ない気分にならずにいられない。山本周五郎の作品の中で、評価も人気も格別に高いものではないが、私にとっては忘れ得ぬ作品の一つである。