本作の主人公鈴之助の生家は、竹や杉や柳等で作られた楊枝を商う楊枝屋です。人の身体の中でも一番に大事にするべき口や歯の品物を扱う商いは、医者にも匹敵する程のものでしょう。
そして、温和な両親と兄達に慈しまれて育ってきた鈴之助は、人の良さを絵に描いたような人物に違いありません。自分が人品共に優れているとは少しも思っておらず、謙虚で心根が優しいのです。これは持って生まれた性格だけではなく、日々の親兄弟との生活の中で培われたものだったと思われます。
窮地に陥っても、色々と思い巡らし最適解に近い解決方法を見出せる能力は誰でもが持っているものではありません。当事者にとって何が一番大切なものかを見極める思慮深さと直感力を持っています。相手の懐に入っていく人懐こさもやんわりと持っていて、子どものような無垢な心情に誰もが惹かれてしまいます。
江戸時代の仕出し料理の仕組みの見事さと献立は垂涎物でした。現代の仕出し弁当とは比べようもない、かの時代が生んだ贅沢だったのでしょう。再現して、味わってみたいものです。