これは、BL小説という括りでなくても良いような気がします。寧ろBL要素(いたすシーン)を取っ払ったSFファンタジーとして、BLを読まない人にも読んでもらいたい…とてもとても考えさせられる、重厚感のあるお話でした。
篠の経験した二十年(コールドスリープ)の空白は想像できない感覚で、「案外変わってない」というセリフがあったけど、どうでしょう。都会と田舎、住宅街とビジネス(混合)街とかにもよるかもしれないけど、ここ数年の間に近所で建て替えられたり更地になったりしたのを、私自身が5軒以上見て時が経つのを感じたばかりなので、二十年ともなればもう少し劇的に変わっているような気がしました。
私も実体験から篠の時代の流れに対する寂寥感・寂寞感は何となく分かるような気がしました。でも天涯孤独の身の上の孤独感は、なった者にしか分からないのだと思います。血縁という繋がりもなく、本来生きていたはずの時代からも切り離され、ありとあらゆるものから遠ざかっていくような…寄る辺ない心許なさはいかほどか。
そんな中で渡良瀬の存在は、唯一の光で歴史と同じかそれ以上に頼れるものだったのだなと思いました。かつての教え子に歳を越されて、教えられたり学んだり年齢以外にも様々な逆転現象が起きて色々と考えさせられました。重過ぎないけどしっかりしたテーマがあって、読み応えがありました。