表題作は薄味の前菜的印象。少しだけ変わっている設定であるのが作品としてより面白み。次の「背中のトウィンクル」の方が響くもの有り。こちらがこの短編集のタイトルにしてもいいくらい相対的に存在感。だが、タイトルのインパクトは、獲物シリーズのほうが勝るかな。先生の作品名はいつもセンス光る。
後は、主張の弱かった前菜や普通めの主菜の埋め合せにしては、意外に濃い目の味の短編が二編来る。超短い頁数乍ら調理巧み。
「皿の上の彼女」(2011年)、どこかで読んだ気にさせる。多分9月既読のBL「食べないの?おおかみさん。」(2019年、小石川あお)になんか似てるからだろう。後発のあちらは一冊丸ごとメルヘンチックBLだが、村人の畏れの対象が違うだけ。一方こちらはあっさり民話風で、 「水に棲む花」(篠原千絵)にも被る感じがする。龍神が喰らうという点に於いて。
「帰り花の彼女」、これも、この手の話はかなり見かけるもの。動物ものというときっと世の中で制作された全漫画作品のなかで大量に用いられるモチーフであるに違いない。アイドル起用の映画で見かけ、ノベルでも読んだ。いくえみ綾氏作品にもこんな感じのを読んだことがある。
収録作品はいずれもそういう訳で、何番煎じかの既視感。
しかしイントロ、捌きかた、展げかた、閉じかたは確かな腕で、軽い一冊として全く肩の凝らない楽しさはある。
価格が割高。そこが無視できない難点。他の少女漫画と同レベルでないとお金が勿体ない。手練れた田中先生の作品、悪くはないのだが、読者の厚みから高価格の理由の無くなってきたBLも考えると(現行相場は最低200円は感覚的に高い)、少女漫画はお手頃な価格設定はセールスポイントであって欲しい。稀には500円近傍も頁数やアート高水準に因ってあるにしても、概ね400円台の価格水準が読者の懐的に妥当では、と思ってしまう。
今回のこれは20%割引利用したからまぁいいか、という感じ。値段と作品のインパクトを考えると、その他、小説や映画の量感や価格帯との比較もすると、また、アニメーション業界の人たちの劣悪な職業環境も思うと、6-700円台の漫画は高い。それとも中間搾取されていて、作者の手には雀の涙しか残らないのか?もしそうなのなら、中間業者のマージンを薄くしても、価格は勉強すべき。競争力維持の為に。長期低迷の出版業界の長期繁栄の為に。
(追記)なんと6月に400円台に値下げ!それなら星5。