美容室で見かけて。
普段手に取らないタイプの領域と思うが、どうしてどうして、髪もさっぱりだが、読んで心の中も美容室に行った感じ。
美容師さんといろんなおしゃべりすることもあれば黙々と雑誌を読み続けることもある。しかし、お客さんと会話してコミュニケーションを頑張ろうとする美容師の方々が多いと感じているなか、本書は、その、客との私的会話のやり取りを禁じられた、比較的大きめな罪を背負っている受刑囚が、ただひたすらにお客の希望を尋ね技量で精一杯応えようとする。塀の外の一般客を相手にする、刑務所内の美容室でのお話。
背後の事情は個別に深入りせずとも、そこには、お客のほうにも髪を整えに来る事情がある。
なぜそこで、その職を?との素朴な好奇心よりも、何を犯したか知らないが、目の前に一人の美容師がいて、お客は髪のことを委ねる。積み重なっていく時間。店をあとにするとき、空を仰ぎ見ずにはいられない、そんな、さらっと薫風が襟足を撫でるような読後感だった。