漫画家を主人公とする話でありながら、動物の能力を持つ新人類「獣人」が当たり前に暮らしている不思議な現代日本が舞台。
キャラクターたちが皆魅力的に作り込まれており、それぞれの関係も複雑で展開が読めず、ページをめくる手が止まらなくなりました。
また獣人の知覚の描写がリアルで非常に驚きました。
「イヌ科のキャラクターは鼻が利く」という描写はそこかしこで見ますが、本作はそこで終わりではなく、「ただし色弱で絵を見るのが苦手」という所にまでちゃんと踏み込んでいます。
そしてこの稀有な描写は物語の核心へと繋がります。
獣人と人間はお互いに知覚も認識も異なり、得意なことや苦手なことも違う。
それは単に違う生き物だから違っているというだけで、どちらが優れている、劣っているということではない。
だから双方とも対等な関係だし、互いに手を取り合って苦手なことを補い合いながら共存していく必要があるのだけれども、それがなかなかうまくいかない。
作中で描かれるこのような世界は、「多様性」の大事さは認識しつつも誤解や偏見にまみれてそれが満足に機能しない現実世界と重なります。
獣人にも様々な種族がいたり、人間である主人公とその担当編集者もキツネとタヌキになぞらえていたり、本作は動物を異なる様々な人々を表すためのメタファとして用いています。
作中で描かれる獣人と人間との関係は、さながら出生率の低下した日本に増加しつつある外国人労働者と日本人との関係を想起させます。
単純なラブコメの枠にとどまらず多様性を取り巻く様々な社会問題にもしっかりと切り込んだ味わい深い作品です。
作中を通じてそんな社会に対し抗うかのように描かれる「どんな人でも活躍できるし、どんな人でも生きていていい」というメッセージは心に響きました。
このような切り口でこのように漫画を描ける作者は天才ではなかろうかと勘繰りたくなります。