高校生でバイの秀吾が恋心を抱いた相手は元カノの父の久我山父で、しかも久我山父は元妻との間の一人娘を育ててきた誠実な駅員。とてもBLの登場人物には思えない。この久我山父の戸惑いと焦燥がリアルでつい感情移入してしまう。背景の妻との死別や国鉄民営化といったエピソードの現実味が人物像に深みを与えているのが凄く良い。そんな父と秀吾を繋ぐのが星なのだ。星は大人になるにつれ変わっていってしまう周囲の環境や人の心との対比のように変わらぬ物の象徴で、本来の自分を取り戻す道しるべのよう。この星にまつわるエピソードが物語とマッチしているのが詩的で素晴らしく、分別のある久我山父に最後まで共感できて、切ない。その10年後に1つの役目を終えた久我山父の素が現れた表情に、見ているこちらも肩の荷が落ちるとはこういうことかな、と自分も肩の荷を落ろしてもいいのかもと思えた。このとき再会した秀吾が星のような存在に思えてくる構成も良く、丁寧な作品作りが光る。
番外編の秀吾のバイト先のスナックのママ(男子)とそのゲイの友達の話も、母親とも父親とも疎遠に育った末に気付いた思いが切なくて、短編ながら親世代に響く物語だった。
レーベルクーポンで購入して出会えて良かった、と思えた作品。前作のポラリスベルに2人の出会いが描かれており、そちらとセットで読むのがおすすめ。