約200ページ。
旧版(2004年刊)の4作品に加えて、ショートと短篇それぞれ1作ずつを収録した新装版。
この著者が描き出すイメージの美しさは格別。理解できなくてもそれはそれで許されるはず(と自分に言い聞かせ続けて幾星霜)。
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・『アネモネと風速計』謎をはらんだ転校生との出会い。転校生の謎は、アネモネと風速計の共通点のように些細なもので、わかってしまえば「ただそれだけのこと」かもしれないけれど、だからこそその謎の只中に在る時間は貴重で忘れ得ないものになるのではないかと思います。作中に登場する百葉箱、私あれが妙に好きなんですが、あれも子供時代の「些細な謎」のひとつでしょうか。星5寄りの4。
・『インスレーター・トゥリー・ストーリー』ちょっと長めの約70ページ。アメリカが舞台なせいか比較的雰囲気が明るく、ガラスのきらめきが際立ちます。爽やか。碍子……電信柱の上の方にあるあの白いヤツが、かつて色とりどりのガラスで作られていたことを、この作品で知りました。使われなくなった電信柱に残されたガラス碍子、時代の遺物はいつもどこか寂しく、それを美しいイメージで見せてくれる作品。星4つ。
・『美男葛』暁に行われる茶会。端正に進行する様子と、少し場違いな野暮な客。私は茶道を全然知らないので色々取りこぼしてるんだろうな……とは思うんですが、とても好き。最後のページを見た時に、この茶事を思いついた「先生」の心の内がざあっと押し寄せて来た気がして非常に印象深いです。最近になって他の作品のレビューを見て知った、美男葛の花言葉もまた味わい深いので、まだ花言葉知らないって方は、読み終わった後に調べてみてください。星5つ。
・『貴腐月』貴腐ワインを作る農園、恩寵と咎。耽美。律坊ちゃんの気高さが好きです。貴腐ワイン、あまりに幻想的なので、この作品での創作だとかなり何年も思い込んでいました。星5寄りの4。
・『薄荷の階楽Ⅱ』4ページ。別単行本収録の同名作品の別バージョン。
・『スパングル』初期短篇。ガラスの破片のうわった塀、少年の砕けた心。かなしい。
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ちなみに、こちら『ミカセ』と同著者『スパングル[新装版]』は、電子の定価が紙本のおおよそ半額。親切価格設定です。