旧版→改訂版→新装版と収録作品数を増やしながらこちら約230ページ。
目をギュッとつぶった時に見えるあの光、鳩山郁子作品はあのまたたきに似ていると思うのですがいかがでしょうか。
旧版が著者2冊目の単行本で、比較的初期の短編集。この頃の鳩山作品世界は、初期の長野まゆみ作品世界(小説)と、独立しながらもシンクロしている印象で、登場する少年達はもしかしたら長野作品で目にした「自動人形(オートマタ)」かもしれない、という概念としての少年像の硬質さがあって気に入っています。この次に発表されたのが『カストラチュラ』(未電子化)で、そこから先の作品は「血の通った少年」になった気がしていて、そちらも勿論大好きなのですが、こちらの自動人形的少年もまた大切な宝物です。
これが好きなら、挿画が鳩山郁子の作品社版・長野まゆみ『天球儀文庫』シリーズもぜひ。
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各話は字数的に諦め、特に好きな作品のみ感想。
・『星的、菫的』(16p)著者作品中なぜか最も好き。二人の少年、すれ違いと多層感。見る角度によって色が変わる「菫青石」という鉱石があるのですが、そのイメージで描かれた作品かなと思っています。
・『緑陰の幕間から』(21p)少年の進む方向を指し示す風切り羽、バレエ団の少年の運動の軌跡をカリグラフィーの飾り模様で表現しているのが美しくて好き。
・『水琴滴』(24p)小説家、月明かりの夜、切子のグラス、差し挟まれる狐のイメージ、そして水琴窟。澄明なしずく、心が波紋を描いて世界に広がるような。この作品で水琴窟というものを知り、ある場所を探して聞きに行きました。実際に聞いたことがあると断然素敵に感じる作品です。
・『Limonea』(Act Ⅰ、Ⅱ合わせて39p)眠り続けるリモネン、曖昧な記憶の中で暮らすピオネアとジロフォン、門柱の硝子球、夢か記憶か別の世界か。レコードに合わせて踊るシーンが好きです。ワルツとレコードって相性が良いですよね、あのくるくるまわる感じが。
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私がなんのかんの言うよりも、旧版と改訂版の帯にある鴨沢祐仁氏の言葉がこの作品集のイメージを素晴らしく表現しているので、そちらを引用して〆とさせていただきます。
「この作品は紙に印刷されていますが、実はひと齣ひと齣が少年たちの結晶世界(ミクロコスモス)を顕微鏡で覗くための薄い薄いプレパラートで出来ていて、ピンセットで抓んで爪で弾けばキンと音がするはずです。」