今川氏真。私の脳裏に真っ先に浮かぶのは『信長の忍び』に出てくる蹴鞠バカ息子……だったのだけど、この作品の氏真さんは美しい!特に蹴鞠姿がめちゃくちゃ良い。この作品でも従来のイメージ通り「蹴鞠好きで、戦国大名としてはダメダメ」なのだけど、鞠職人五助の目線で描かれる氏真は、なんとも美しく哀しい。よくぞこんな物語を作ってくださったと感動するし、幾花にいろさんの絵も良い、上手い。今後もこの作家の歴史物を読みたい。ただ蘊蓄好きの個人としては、せっかく鞠職人という珍しい素材を扱うのだからその世界についてもうちょっと知りたかった気もする。蹴鞠についてもルールとか。
読後には、高々と蹴り上げられた鞠を見上げる時、視界いっぱいに広がる空のような清しさと寂しさが残る。地べたを奪い合う戦国武者たちとはまったく相容れないからこそ、氏真さんは氏真さんとしてかっこいいのだ、そう思うようになった。