エドガーは、人と人ならざるものの間であり、大人と子供の間であり、性別すら不確定な、「狭間の存在」であるように思います。永い時を止まったまま過ごす、どこにでもいると同時にどこにもいない……その存在は物質的と言うよりも「ゆらぎ」そのものであり、そのゆらぎが通り過ぎる時、そこに居た人の何かがろうそくの炎のようにふとゆれる、これはそんな物語なのではないでしょうか。
十字架は必ずしも弱点にならない、という設定は、この作品で初めて目にしてその理由に目から鱗がボローッと落ちました。アランから十字架を受け取るシーンは、息を呑む名シーン……そして、この作品を読んでからというもの、沈丁花の香りがするたびに、金色の輝きが見える気がします。
どのエピソードもすばらしく、各話を語りたけれど文字数は足りませんのでひとつだけ。
5巻収録の『はるかな国の花や小鳥』、これがものすごく好きです。エドガーが出会ったミス・エルゼリは、いつも微笑んで、薔薇と音楽と思い出に囲まれて暮らしている……その強固な囲いは彼女を永遠の少女たらしめ、たったひとつの憧れの心が彼女と世界をつないでいる。概念としての「少女」の極北ここに輝けり。そして、ラストのエドガーの悲しみが、はからずもその引き金を引いてしまったのはエドガー自身であるという皮肉さが、悲しみにいっそうの透明感を増しているように思います。
電子化されたこちらは発表順収録の単行本ですが、赤いカバーの全集版では物語の進み方や作中時系列がわかりやすい順の収録になっています。以下に記しておきますので、よろしければご利用ください。
()内がこの単行本収録巻数。
◇ポーの一族(1)◇ポーの村(1)◇グレンスミスの日記(1)◇すきとおった銀の髪(1)◇はるかな国の花や小鳥(5)◇メリーベルと銀のばら(2)◇エヴァンズの遺書(4)◇ペニー・レイン(4)◇リデル・森の中(4)◇一週間(5)◇小鳥の巣(3)◇ピカデリー7時(5)◇ホームズの帽子(5)◇ランプトンは語る(4)◇エディス(5)
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藤子・F・不二雄に『エスパー魔美』の作中で「「ポーの一族」のような大傑作」と魔美ちゃんを通して言わしめたこの作品、この美しき「ゆらぎ」が「時を超えて遠くへ」……人の心を揺らし続けることを願って。そして自らが「魔法使いの目」を保てることを夢見て。