葛藤とか抵抗感とか、環境からの理解力とか、「上司」徳永さんの可愛いツンデレと「部下」高梨のあっさり乗り越えて来る伸びやかな感情とか、なにかとあれこれ入っていて収拾もついてる。連写的表現が巧みに使われたり、さらりと入り込んでいたほんのひとコマを後で活かして結局伏線にされたり。読み手に刺激を強く与えてない作りで、消化能力の高い栄養が含まれてる物を供給されたような。
見易くクセのない、よく言えば今どきの絵なのに、個性のないBLかとも言い切れない、飽きのこない作風。少しベッドシーンあるが、恋人同士ならば、というレベル程度の描写に留まり、そこを読者を煽るために見せていない。
感情のやり取りを自然に見せる表現で、同性が元から好きな徳永が、同性を初めて好きになった高梨から好きになった言われ、恋人としてさまになっていく。高梨に本音を語りたがらない徳永の背景も噛み砕いて表現しているから、そして隠さない二人の恋愛の方向感が、徐々に自然体に持ち込んで行くから、読み進めるうちストーリー自体は平凡なはずなのに、味わえる作品。
携帯に、発表されたという「同じ場所に」という作品も収録されているが、部分部分省かれ過ぎているところがある感じはするものの、互いに読めない相手の内面をやっとほぼ同じタイミングで伝える事になる、その直前の、相手を知りたい気持ちと、露出する羽目になる自分の感情を相手の試しイコールズルさと、やっとわかった互いの感情の着地で、淡さと危うさの上手いところを突けているかと思う。終わり方が、短編の引き取り方の上手さを発見。同時に、読者には、その委ねかたが半端と感じる人もいるだろうなと想像も。