赤石先生は、ストーリー作りに天才的手腕を感じさせて簡単に作品内部へ人を引っ張り込む、希代の創作者なのだと思う。面白くさせているのは何か。設定、人物配置、エピソードの切り取り方、奇をてらわず、しかし手垢の付いた題材とも思わせない。各キャラの役どころにジャンプの無い自然さがあり、読み手は置いてけぼり感無く展開に乗っていける。
漫画によって表現される方法でしっかり味わえているが、たまたま漫画でならこう、ということで、創作されているものは、文字だけでも、或いは動く物でも何でも伝え方が出来そう。
音の無い媒体なのに音楽を話の素材に扱う漫画は私が読みたくなる一領域だが、ストーリーにかませてある諸々が、奏でる音楽の場外部分で既に、一定の演出効果を確保している。演奏シーンが出たときには自分のイメージを持ちやすくなっている。
物語力の高い終わり方も才気溢れる。
私はこういうほうが、物語の可能性や更なる拡がりを感じて好きなのだが、世の中には、万事片付いたその後が見たい、という人も相当数居て、不満票を呼んでしまうかもしれない。アメリカ映画的な安心重視の終わり方の好きな人と、ヨーロッパ的な映画のように、物事には全て終わりの有り無しはうやむやで、ここはひとまずこれで、みたいな終わりかたを好むのとの違いのように感じているが。
静かな曲調に戻ってそっと終わる曲もあれば、クライマックスまで怒濤の熱気で駆け抜ける曲、終わりがないようにいつまでもいつまでもモチーフでもリピートしていつか消える曲、終わりが来るぞ来るぞと盛り上げて様式化されたゴーダで分かりやすく終わる曲、そして、この話のようにサクッと振り下ろされて突然の幕引きで終わる曲も。
同時収録は篠原千絵先生作品を思わせるサスペンスにラブの組み合わせのストーリー。こちらは、本編4巻の最後に収録の位置付け妥当な作品。
怖さよりも暴走機関車とか、勝手に動く乗り物の映画と同趣向なのだが、車の感情表現は言葉に頼らざるを得なかったか、とは思った。
大袈裟でもないのに思わせ振りな滑り出しで関心を上手く惹き付け、ところどころ振ってある断片的な要素を無理なく先読みさせない仕掛けで繋ぎ、有りそうで無い、嘘とも断じきれない、まことしやかな語りの妙で、結末まで飽きさせない。作り込んだ作り話を作り物臭い上っ滑り方させない見事な構成と進行で、