グノーシスの絡みと指輪のところは面白く、抜群の導入部だったが、チェーザレ・ボルジアでこの話は出口をきれいに出てこれなくなった。指輪をどうしたいのか、作者が指輪で話を一本貫けなかった。グノーシスの立ち回りかたには仕方のないところがあるが、主役クラスが主役的振る舞いをするのはチェーザレ前。急転して血なまぐさい歴史に放り込まれ、仁希と友理は何をするでもない巻き込まれの被害者、立会人。歯がゆさを覚えた。もちろん歴史を動かせないのは承知している。
ただいろいろとっ散らかったままなのは、打ち切りがあったのだろうと想像させる。
文字の多さは私には川原先生らしさとして楽しめるが、後半その川原節が薄くなったのも、作風変更の介入でもあったのだろうか。
もっと計画的に構想できるよう、出版サイドも事前に調整すべきこといろいろあったんじゃないのか、との気持ち。
幼馴染み要素が前半のチェーザレ前までは強かったのだが、その後退も、話の骨格を一本抜かれたよう。
はじめから歴史物として統一させることは出来ない冒頭の作り、それでいながらチェーザレ達のターンで終わっているが、事前にある程度頁数に計画性があったのなら、どっち付かずには見えなかっただろう。
ミラノの観光名所の名が出て、オッと思った時に少し近しさを覚えた、そのくらいしかない。仁希や友理にも、ルクレツィアやましてチェーザレにも、私はちょっと離れた見物客になってしまった。
1990年~91年発表作品。