BANANA FISH
」のレビュー

BANANA FISH

吉田秋生

アッシュ・リンクス17歳

ネタバレ
2018年5月3日
このレビューはネタバレを含みます▼ 私はコテコテの「少女漫画」が好きなので、この、どこをどう見ても少女漫画に見えない作品を、他の大好きなラブコメのような領域の物と同列に出来ない。少女誌に連載したその出自で分類されているが、少女は登場しない。大人の女性はたまに居るが圧倒的に男の子と男性の世界。どうしてこんな作品が描けるのか、吉田先生は女性作家であるというが、脱帽しかない。
コマも少年・男性漫画のようにカクカクと切り取られ、銃撃戦の硝煙と殺し殺されの血生臭さが充満するハードなストーリー展開で、本当にあったことのような世界が繰り広げられる。
アッシュと奥村英二の関係が、尊いもののような存在。阿修羅王といわせるくだりがあるが、多分にその事を意識した人物造形なのだろう。

「オレは今幸福なんだ/この世に少なくともただ一人だけは・・・/なんの見返りもなくオレを気にかけてくれる人間がいるんだ」「こんな幸せな/気分は生まれて/初めてだ」「もうこれ以上はないくらいー」
ここが、読んでいて、まだ高校生の年齢なのにこれ迄に味わされてきた彼の心身の痛みというか、胸を抉られてきた生き地獄的な苦しさというか、年端もいかないいたいけな幼い時から放り込まれてしまったこれ迄の黒い世界の過酷さ、そんなものを思い起こさせてどうしようもなく切ない気分にさせられる。
「憎んで覇者となるよりも/愛して滅びる道を選んだんです」
もう既に作中に言わしめている台詞で、この話が最後まで明るくなれない宿命を匂わされ、ラストがハピエンでない(人によってこれが彼のハピエンという見方をする人も居るか知れないが)覚悟はあるが、最後の最後までは、作者は彼に生きていくことの幸福を与えてやらなかったんだ、との、悲しい気持ちも一杯ある。

恐ろしいほどの縦横無尽ぶりで、このストーリーは緊張とスピードを保ったまま、短い少年の生を描き切っているから凄い。
鬼才って言うんだろうなぁと、思う。
吉田先生の作品は他に短編二冊読んだが、題材の衝撃度で、この作品は突き抜けている。

一点だけ、私は、アッシュが、美しい少年設定なのに絵柄がそう信じ込むのに努力を要する、そこだけ残念。
同じようなところで同じようなキッズの幾つかのグループが居て、ボスを抱える。合従連衡したりの中での彼らの仲間意識や帰属意識は、アッシュ-英二以外の物語の軸として、この話に熱を与え、キャラたちがお飾りでなく生きている。
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