文学少女
」のレビュー

文学少女

野村美月/竹岡美穂

他人とうまくいかない少年少女のための青春

2018年5月27日
主人公は、好きな女の子を目の前で失うという痛ましい経験をした少年です。
それまでの自分の世界が全て崩れ去るような想いをした彼は、それ以来、人との関係の構築を避けています。
しかしあるとき、そんな彼の前にとある“文学少女”が現れます。彼女は、人間関係の複雑にもつれた感情や意思を物語のように読み解きながら、主人公ひとりでは見えない世界の扉を開いてくれるのです。

友達とうまくいかなかったり、好きな人と傷つけあったり、家族に見捨てられたり、信じた人に裏切られたり、大切な人を失ったり……それでも私たちは生きていかなくてはならない。
そんなときにページをめくると、苦悩を感じて生きているのは自分だけではないと、そっと勇気づけてくれるような優しさのある青春小説だと思います。

一方で、作家の孤独や、作品が他人を傷つけることの業にも踏み込んだ作品でもあります。
自分が描くことで誰かが傷つくことに苦悩したことのある人間なら、主人公の苦悩に共感するところがあるかもしれません。
それでも尚、この作品はそういった愛憎の全てを含んだうえで、物語を生み出すことを信頼を込めて肯定しています。
その信頼は、読むたび私の心をあたため、小さくとも確かな灯を胸に抱かせてくれます。
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