月の子 MOON CHILD
」のレビュー

月の子 MOON CHILD

清水玲子

一瞬の恋に全情熱と生命を燃やす人魚

ネタバレ
2018年12月9日
このレビューはネタバレを含みます▼ 私は、ショナとセツの切なさ漂うカップルが忘れられない。今でも、何であの結末?とか。それからセツは、見た目は中性的。でも、すごく好感度の高いヒロインの一人。セツって、儚くて穏やか。でも時には、意外に大胆で情熱的な愛情表現や行動を見せたりもするし。セツが女性化した姿も、私はベンジャミンより、よほど綺麗に見える。確かにあの華やかさ・愛らしさはないが、清涼感・気品が目立つ。そして「月の子」は、深遠で重層的な構造を持った作品だというのも判明。実際はショナも王子で、セツも人魚姫なのでは?とか。私も他の様々な考察を見て、そういう意味かと感心することも。また、ベンジャミンやセツは、聖書の人物の名前とか。いろんな人の考察も参考にさせてもらった上での、私自身の結論。ショナとセツは、もう一人の王子と人魚姫。隣国の王女はベンジャミン。ショナとセツが結ばれるためには(卵の受精まで)最終的に王子のショナ自身の死が必要だったとか?ショナが発電所へと向かったのも、セツの住む地球を守りたいから。ロシアでの事実上の蜜月状態からの、セツを残してショナが発電所へ、そして彼らの死別の急展開。更にショナと女性化したセツとのやり取りがあまりにもわずかで、よけいに彼らへの不憫さが増すが。でも彼らがロシアにいる間に、二人の気持ちは十分通じ合っていた。そしてついに、彼らが肉体的にも結ばれたのが最終的な愛の確認。一緒に過ごした期間の長さは、問題ではないのだろう。人魚自体が一瞬の恋に全ての情熱と生命を燃やす種族、というイメージだし。彼らの結末についてはあれも、彼らの恋の成就という、ハッピーエンドと捉えるべきなのかも。最後のジミーの悪夢は、あれはもう一つの存在し得る未来。昔のロシアの原発事故と物語も、完全にリンクしているのではないのでは?私は未来の選択は、人類に委ねられているという警告と共に、絶望よりも、希望を表していると感じた。人類は過去の失敗から学び、今度は違う選択ができる力があるという。ジミーが人間になるのも示唆的。ティルトの契約による原発事故自体は、アート、ジミー、ショナ、セツなどの人々により、回避されたのだと思う。私は「月の子」以降から「輝夜姫」や「秘密」などは合わず、清水玲子作品を読むこともなくなった。だから私にはこの「月の子」は、よけい思い出深い作品。実際に、「22XX」が作者の中でも分岐点だったらしいし。
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