このレビューはネタバレを含みます▼
響く作品なのではないかとそう思います。連載中に他誌へ移行せざるを得なかったことは残念でしたが、この作品が引続き連載されるよう働きがけをした集英社に感謝したいです。少女誌から少年誌へ...リスクの大きさでいうと異例とも言えますが、それだけ作者自身も関係者も読者もこの作品を続けたい続けて欲しいとの想いが強かったのだろうなと感じています。自分もその一人です。どうか他誌に切り替わったことによって作品の表現が変わらぬよう最期までできる限り生き生きとした玄石高校野球部員たちを描ききって欲しいと切に願っております。この機会に1〜9巻を読み直しました。通しで読むと主人公修二の暗く重い自責の念、幼馴染の空への拒絶感と罪悪感、その他の過去のトラウマが少しずつ霧が晴れるようにして光が差し込んできて、これまで共感して重苦しく辛かった気持ちが喜びに変わります。また、修二はずっと空のことを嫌いだったわけではなく、空を通して己を憎悪していたからこそ向き合いたくなかったのだろうなと感じられたのは、二人が握手をしたときに修二がすぐに手を離さなかったシーンです。言葉こそネガティブに書かれていますが本当に憎悪していたら触れるのも悍ましいのが人間というものです。そういった細かな仕草であったり、その他にもしれっと描いてる伏線がとても綿密に張られてあったり、作者の絵の巧さも相まって登場人物の表情に至るまで人間像に説得力があるのがこの作品の良さです。ストーリーの進行が遅いというレビュアーもいますが、ひとりの少年が自分の心底大切にしてるものを自分で汚し、その結果手放すことになり、手繰り寄せたと思ったら今度は方向が違って...自分の理想とかけ離れてしまった上にどんどん周りが事を収めていくスピードについていくというよりは流され、自分の思う通りにいかないことにもがいて苦しんで悩んで許して受け入れて、そして希望を見つけるという流れを描くとしたらスローペースにもなります。想いが強いからこそチャッチャと切り替えられないのが「人」というものでは?それを好むか好まないか、リアルに書かれたネガティブな感情を共感できるかできないかでこの作品の評価は違うのでしょうね。長くなりましたが私はこの作品をとても人間臭くて青臭くて泥まみれだけれど、すごく清々しいなと今年出会えて一番嬉しかった漫画です。10巻を楽しみにお待ちしております。