シークの妻に望まれて
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シークの妻に望まれて

ケイトリン・クルーズ/荻野目かおる

話は浮わつかず理性的 王族との結婚の真実

2019年1月11日
他のHQの典型的な、王子や国王との「シンデレラ」ストーリーの絵空事が、少女の夢や憧れのキラキラなお伽噺の膨張版を描いたとするならば、こちらは、妃とは、王室に嫁ぐとは、といったことを真正面から取り組んだ大真面目な立后物語。地に足が着きすぎて跳べなくなってるかのような姿が出色の作品。
(ストーリーの持つ聡明さは原題のセンスにも顕れてる)
絵ではなく言葉が話を引っ張っている。それは元々の話の筋に流れているもので、コミカライズで付加されたものではないだろう。
台詞ひとつひとつまるで本当に城の中で、いずれ国王となる人物なら、或いはその周辺の由緒や格式・伝統を重んじる保守的な人々なら、いかにも言いそう考えそう。ヒロイン母の、自分の人生を重ね合わせる言動も圧がかかってきて、何度かの咎め立てるような目は、口ほどにものを言う、というのを体現している。実際、結婚によりキャリアを諦めた人の想いと重なり何とも現実的。

結局皆が皆、自分の固定観念に囚われていた。
これ迄の「常識」を打ち破る、してはならないとされていたことを一歩踏み出してやってみれば、反対者もいるけれども、拍手で歓迎する人も居る。
象徴的に最も従来の踏襲にこだわる王室に題材を扱っているが、なんにでもどこにでもあること。
守旧勢力が叩いてくるような構図にもならず、ヒロインがただただ素の自分を保てる環境整備に奮闘した話。彼のバックアップを得るために、彼にも気付きの機会を与え、二人が二人の思う国王夫妻のあり方で進むための出発点となる話。

問題は視覚的に楽しめなかった点。
好みであるとかないとか、新しいとか古いとか、私は絵に関してそこはマイナスには考えられない。
見とれる頁が無かった。これはHQ。引き込まれるには、キャラ達が、お妃教育のその先のあるべき模範を追いかけるシステムで苦しむ最中の、何となくの想定できる普通さを、もっとそれは辛いよね、と共感したかった。
冒頭数頁、スッキリ鮮やかな輪郭を持った、解像度の高い画面を見せてもらったのに、期待させる始まりだっただけに、そこから後半、終盤に行くほどに、ストーリーだけが前にあって台詞だけ上滑りの感じ。
古さと新しさ、従順と主張、自由と義務、対立軸はいずれも抽象的な概念対立で、絵にしにくいのは理解するが、それでも、コミカライズをする以上は言葉で済ませないでなんとか頑張って見せて欲しかった。
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