このレビューはネタバレを含みます▼
老婦人が「いたってフツーの75歳女性」として描かれていることがすごい。正月の黒豆を2Lにするか、3Lにしようか商店街の店先で悩む姿はユーモラスで、かわいらしい。主人にも先立たれたし娘も国際結婚で日本におらず正月は家事にいそしみすぎない。たまに日本に戻ってきた娘をもてなして別れた後は「やれやれ、やっとゆっくりできる」と家事を休んでダラダラし、体の節々が痛んではおっくうがる。自分や、母、祖母のいずれかの印象をかさねて、愛おしく感じるのだと思う。 その彼女の生活が、書店でたまたま手に取ったBL本への傾倒で世界が色づいたように一変し、さらに書店員の17才(人付き合いが苦手で自分の外観オシャレよりも本が好き、という腐女子あるあるな二人目のヒロイン)との交流で「自分が好きだと思うことを誰かとキャーキャー話す」という楽しみを知ってしまう。老婦人と少女はコミケへ行き、雑誌連載を追いかけては萌えを語り合い、そして少女の悩みに知らず知らず老婦人が指針を与え……物語は、人と人が紡ぎあう人生の織り色。すばらしい作品で、続きが楽しみでなりません