健康で文化的な最低限度の生活
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健康で文化的な最低限度の生活

柏木ハルコ

公務員の苦悩?

ネタバレ
2020年7月7日
このレビューはネタバレを含みます▼ それを、よく描いた作品だと思います。

警察官・自衛官・消防官・国税専門官・労働基準監督官等は、本人が「一生その専門職で生きていく」ことを、自ら志願して試験を受け、合格して就く公職であり、採用された日から「専門養成機関」に配属され、かなりの時間をかけて関連法令や「実技」を叩き込まれ、卒校後は、相当の「公権力」を持たされ、現場に配属されます。

一方で、生活保護のケースワーカーは、あくまで「一般事務職」として採用され、「定期の人事異動で配属された『ただの』事務官」であり、業務知識「ゼロ」の状態で配属されます。この主人公のように、新卒で、そもそも公務員というか、社会人としてのイロハもわからない状態での配属もあります。

よく「ケースワーカーって、福祉職でしょ。甘えるな。」という方がいますが、たしかに「保健師さん」がいたり、また嘱託の支援員さん、中には「県警OB」がいる事務所もあるようですが、それはほんの数人で、ほぼ全員が、別に上記のような訓練など受けていない「一般事務職」の方々です。

これは、たとえば、都市計画課から水産課へ異動…などとは、比較にならないほどに大変な異動のようで、大抵は「連休明けまでに、法令を抑えてほしい」などとう悠長な期間などはなく、初日から100世帯のケースのファイルを渡され、次々とくる相談者や電話に対応し、とても「勉強」などしている暇はないそうです。

主人公を未熟として批判される方もおられますが、そもそも、新卒に生活困窮者家庭の「救済」を任せるなど、研修医に脳外科手術のオペを医師単独でやらせるようなもので、無理がありすぎます。

あとは、「公権力」ですかね。ある程度、もっと持たせるべきではないかと。警察官など、自分に暴言を吐いてきた住民が、制服に手を添えただけで「公務執行妨害」で現行犯逮捕も、その気になればできます。その一方で、CWはただひたすら暴言やセクハラ発言にも耐え、隠し財産が疑われる時も「捜査権」などなく、受給者の「任意」に頼るしかない… 公費で生活を保護されている人(下に見るわけではないですが)に、どこまで、頭を下げて心を開いてもらう努力をしなければいけないのか…

公務員なんて、税金泥棒!と、公務員も給料から税金を天引きされていることすら知らない方々に、ぜひ読んでほしい作品と思います。
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