娘の友達
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娘の友達

萩原あさ美

主人公は悪くない。悪いのは周囲の人間。

ネタバレ
2020年8月11日
このレビューはネタバレを含みます▼ 主人公は妻と1年前に死別したサラリーマン。一人娘は家事を手伝うどころか、学校にも行かず、部屋に引きこもっている。教師は「娘の不登校は親の責任だ」と突き放すばかりで、何も支援せず、解決を主人公に丸投げする。思い付き発言で事前の段取りを御破算にする上司。公衆の面前にもかかわらず上司に噛みつく社会性に欠けた部下。露骨で幼稚な仲間外れをしてくる同僚達。本作の登場人物の中で一番まともなのは主人公だろう。酔っ払いに絡まれた女の子を助けたり、不倫を告白してきた友人を諫めていることから、真っ当な正義感と倫理観を持ち合わせていると考えられる。あまり要領は良くないようだが、ハードワークでカバーし、成果を挙げて、順調に出世街道を歩んでいた。真面目で誠実な人柄だと思う。好感が持てる。主人公は、自分なりに精一杯仕事や育児に向き合っているのに、誰も認めてくれないし、誰も助けてくれない。精神的に参ってしまい、吐き気や眩暈に襲われるようになる。そんな中、偶然再会した娘の友達だけが、主人公を慰め、救いの手を差し伸べてくれた。倫理的にマズいと分かっていても、苦しい現実から逃げ出したくて、会うことを止められず、主人公の生活は徐々に破綻していく。しかし、娘の友達は、男の人生を狂わせた悪女とは言い切れない。もしも娘の友達と関わることがなかったら、恐らく主人公は鬱病を発症し、果ては首を吊るか電車に飛び込んでいただろう。主人公は悪くない。悪いのは、主人公の苦悩に気付けなかった、周囲の人間だと思うが、ひたすら主人公ばかりが責められ続ける。本当に気の毒だ。話の展開的にハッピーエンドは望めそうにないが、救いを感じられる結末を期待したい。
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