窮鼠はチーズの夢を見る オールインワンエディション
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窮鼠はチーズの夢を見る オールインワンエディション

水城せとな

傘を持たなかった理由

ネタバレ
2020年9月12日
このレビューはネタバレを含みます▼ 前からタイトルを知ってはいたものの、読むきっかけを得られずにいました。ようやく手にした途端、一気に最後まで読み通してしまいました。
「愛している」という言葉の持つ感覚がよくわからないという恭一の心理には、かつての自分が重なりとても共感しました。
この物語の本編ラスト、降りしきる雪のバス停近くで恭一が今ヶ瀬と語り合うシーン。今ヶ瀬の恋の終わりを見届ける云々と、雪の中に立つ今ヶ瀬を見つめながら、恭一が独白する様子が一枚絵に描かれていますが、これこそ恭一が今ヶ瀬を愛しているという心情を表現しているんだ、と気づいて、心うたれました。
恋、とは例えれば川のようなもので、流れの急な時を過ぎればいつか凪いだ海に届き終わりますが、愛、とはそんな海の底に、静かに降り積もる雪のようなものなのだと気づいた時のことを思い出しました。
傘をささず降る雪の中に立つ、というシチュエーションは必然だったわけですね。
ビターなエンディングと受けとめる方もいるようですが、私はリアリティに満ちたハピエンだと思っています。
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