囀る鳥は羽ばたかない
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囀る鳥は羽ばたかない

ヨネダコウ

心が揺さぶられ続ける

2020年11月8日
とにかく主人公の矢代の生き方に惹きつけられます。幼い矢代にはどうしようもなかった出来事を意識の下に覆い隠して、自分を虐げるように身体の関係を持ち、人間嫌いを嘯きながら他人のために立ち回る。なのに漸くお互い大切に思い合う百目鬼と思いが通じようとすると隠してきた意識下の記憶が甦り自分が幸せになることを受け入れられないなんて切なすぎる。飄々としている矢代が百目鬼のことになると気持ちが溢れたり余裕がなくなってしまうシーンにキュンとしまず。任侠物として生命を晒して危険を乗り越えた後の甘いシーンや、その逆展開といった緩急の付け方、幼児期の経験からのサバイバーとしての矢代の生き方など、どの切り口をとっても心が揺さぶられる一級品の作品だと思います。読んでいる間、脳内で勝手にジャズが流れる哀切を帯びたトーンが続き、切ない気持ちになってしまうのですが、またすぐ繰り返し読みたくなってしまう中毒性にどハマり中です。
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