無恋愛紳士
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無恋愛紳士

ARUKU

ふんわりと温かくなる読後感

ネタバレ
2020年11月11日
このレビューはネタバレを含みます▼ タイトルの『無恋愛紳士』、主人公の無性愛という性癖と、紳士(=モラル)とが掛け合わされています。誰にも恋愛感情を持てずにきた主人公・蘇芳。それによる孤独さや、パートナーも無く一生独身でいるだろう将来への漠然とした不安、世間からの同調圧力などを防ぐための防御壁として、おそらく無意識に紳士であろうとしている姿を表しているのかなと思いました。それは同時に、人の温もりを知らない主人公の寂しさと頑なさかもしれません。誰からの愛も受け入れられない誰も愛せない美しき孤高の主人公・蘇芳の部下として新たに配属された日夏が、一途で熱くて真っ直ぐな愛を、ガンガンと蘇芳に注ぎ続けます。自らの全てを捨て切って、持てる全てを蘇芳に傾け続ける日夏の切ないストーカーっぷりは、名作短篇『琥珀の月』を彷彿とさせる純愛の極地です。また、最初はキツイ攻め顔だった蘇芳が、ストーリーが進行するにつれて、徐々に可愛らしい受け顔になってゆく過程も絶妙でした。会社モードとオフモードとで微妙に行きつ戻りつするのですが、その辺りがさすが、さすがの画力です。
恐らく無性愛というのは、かなりグレーゾーンの領域が広いのではないかと思われますが、恋愛、結婚、友情、全てに様々な形があり、蘇芳の日夏に感じた想いが厳密に恋愛感情なのかはわかりません。でも、他人に興味の無い、心動かされることの無かった蘇芳が、自ら日夏への想いを吐露できたことが本当に嬉しかったです。最後のモノローグにキュンキュンしました。
『恋に落ちる花』の真壁さんのゲスト出演も美味しかったです。ごちそうさまでした。
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